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10代の君たちへ 『自分を育てるのは自分』 東井義雄 (2)

22.12.08

4.もえさしが気付かせてもらった

校長を勤めていた学校まで、家から通えませんでしたので、学校から200メートルほど離れたところで
自炊をしていました。夜、食事の片付けをやり、先生たちが書いてくださっている教育記録に、
私の感想を書いているうちに夜がふけてきます。
「ぼつぼつ、休ましてもらおうか」
仏様に、夜のおつとめ(正信偈を読み、おまいりすること)をすまして、寝床の上に横になろうとして、
「もえさしが寝よるわい」と思いますと、哀れで、みじめで、やりきれません。」
「太田君はもえさしを大事にするというが、もえさしを大事にするにはいったいどうすればいいのか」
いてもたってもおれません。なかなか寝つかれません。
それでもいつのほどにか眠りにつきました。
朝になって、お便所でしゃがもうとしかけて、
「もえさしがしゃがみよるわい」と思いますと、哀れで、みじめで、やりきれません。
いてもたってもおれんもんですから、その問題に答えてくれそうな書物を、手当たりしだいに読みあさりました。
そして、ついに行き当たったのが「若きいのちの日記」という本でした。
ひょっとして、皆さんの学校の図書館にあるんじゃないかな。本屋さんに今出ております。
その本を知らない人もね、ひょっとして、皆さんがまだ小さい頃、テレビなんか見ていると
「マコ、わがままいってごめんね、ミコはとっても幸せなの・・・」
という歌があったのを知っているでしょう。
あのミコ、本当の名前は大島みち子、私の兵庫県の織物の町、西脇という町の娘さんです。
西脇の中学校の校長をやっていたのが、ちょうど師範学校の同級生で、その大島みち子さんを教えたんだ
といっているんですが、子どもの頃は顔はかわいいし、頭はすばらしくいいし、体は健康だし、
気立てはやさしいし、本当にいい子だったといっております。
ところが、高等学校に入った時、顔の軟骨が腐る、なんとかいう、イやなめずらしい病気にかかったんです。
顔には軟骨がありますね、鼻なんかも。これが腐ってしまうんです。でも、一時よくて、
高等学校を5年かかって卒業しているようです。
その大島みち子さん、そんなイやな病気にかかって、高等学校を5年かかって卒業し、
京都の同志社大学の文学部に入りました。大学に入ったと思ったら、またそのイやな病気が再発しまして、
長い病院生活がはじまりました。
その間に、河野誠という学生と知りあって、互いに手紙を取り交わす間柄になったんです。
が、とうとう二人はいっしょになれずに、短い生涯を病院のベッドの上で閉じていきました。
その大島みち子さんが書き残した日記を集めたのが「若きいのちの日記」という本です。
それを読みました時、現代娘の大島みち子さんに教えられた気がしました。
大島みち子さんは書いてます。

「病院の外に健康な日を三日ください。一週間とは欲ばりません、ただの三日でよろしいから病院の外に
健康な日がいただきたい」


ただの三日健康な日がもらえたら、皆さんはどう使いますか。大島みち子さんは書いています。

「一日目、私はとんで故郷に帰りましょう。そして、お爺ちゃんの肩をたたいてあげたい。
母と台所に立ちましょう。父に熱燗を一本つけて、おいしいサラダを作って妹たちと、楽しい食卓を
囲みましょう。そのことのために一日がいただきたい」


とんで西脇に帰って、かわいがっていただいたお爺ちゃんの肩、ぞんぶんに叩かしていただきたい。
お母さんといっしょに、お炊事することの中に、お母さんの娘に生まれた幸せを味あわせていただきたい。
ご苦労ばかりかけっぱなしのお父さんのお膳に、熱いお燗を一本つけさしていただきたい。
妹たちと、楽しい食卓を囲ましていただきたい。そのために一日がいただきたいというのです。

「二日目、私はとんであなたのところへ行きたい」

その河野誠青年のところへ行きたいというんです。

「あなたと遊びたいなんていいません。お部屋のお掃除してあげて、ワイシャツにアイロンをかけてあげて、
おいしい料理を作ってあげたいの。そのかわりお別れの時、優しくキスしてね」


あなたと遊びたいなんていいません。愛する人の部屋のお掃除をする中に、
女のしあわせを味わわせていただきたい、
愛する人のワイシャツに、心を込めてアイロンをかけてあげることの中に、
女の生きがいを味わわせていただきたい。愛する人のお料理をつくってあげる中に、
女に生まれたしあわせを味わわせていただきたいというのです。

「三日目、私は一人ぼっちで思い出と遊びましょう。そして、静かに一日が過ぎたら、
三日間の健康をありがとうと、笑って永遠の眠りにつくでしょう」


まだ若い大島みち子さんに教えられた気がします。

「そうだった。今まで粗末に考えてきた、つまらなく見えていた、そのひとつひとつをもう一度、
思いを新らたにして考え直す以外、もえさしを大切にする道はなかったんだ」
そんなふうに気付かしてもらいましたね。

皆さんも、いろいろな悩みを
持っておられるかもわかりませんがね、
おかげさまでというような受け止めが、
できるようになってください。




『自分を育てるのは自分』東井義雄 著 致知出版社 より引用