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人財の育成こそ企業発展の要なり 月刊『致知』より

22.04.19

累積二百億円超の個人資産を京都先端科学大学と附属高校に
投じて運営を引き受けられ、大学改革に乗り出された永守さんと、
4月より京都先端科学大学国際学術研究院教授に
就任された名和さんの対談の要旨をご紹介させていただきます。

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1973年、28歳の時に僅か4人で立ち上げた日本電産を、
一代で世界一のモーターメーカーに育て上げた永守重信氏。
経営者として既に破格の成功を収めた氏だが、2018年74歳にして
新たに挑戦を始めたのが、学校運営を通じての教育改革である。
豊富な経営体験から培われた独自の教育観について、
永守氏と共に人財教育に取り組んできた名和高司氏に繙いて
いただき、未開の高峰に挑み続ける永守氏のエネルギーの源を
探った。

人間の能力の差は通常2倍くらい。秀才まで入れてもせいぜい
5倍までですよ。しかし意識の差は100倍にもなる。



名和 理事長は常々、IQ(知能指数)よりもEQ(感性指数)、すなわち人間力のほうが
大事だとおっしゃっていますね。

永守 世間はIQばかり注目するんですけど、うちの社員を見ていると、IQが高いだけで、
素晴らしい製品を開発できる保証はないですよ。やっぱりEQのほうが大事。
IQは生まれ持ったもので、簡単には上がらないし、高い人と低い人の差はせいぜい5倍くらいしか
ありません。けれども、EQは磨けば上がるし、その差は100倍にもなる。だからIQの高い人を
探すよりも、EQの高い、もしくは高くなる性格の人を選んだほうが、会社は絶対うまくいくんです。
雑談力や人間性はこのEQと深く関わっていて、EQの高い人は人間関係をしっかり築くことが
できるから、営業をやればうまくいくし、開発をすれば上手に人心掌握をして多くの社員を
まとめることができるんです。
残念ながら、いまの若い人はEQを磨く機会がほとんどないんですね。子供の頃から塾に行かされ、
家庭教師をつけられ、勉強ばかりやっているし、少子化だからきょうだいの中で揉まれて
人間関係を学ぶチャンスもあまりない。だから学校の成績が良くて医者になっても、患者の
気持ちが分からないから、データだけ見て「あなたはあと6か月の命だから」と平気で言ってしまう。
いまの学校は、「教」知識を与えられるだけで「育」人を育てることをしていない。
これは教育じゃないですよ。だから私の大学では、人の気持ちが分かる、EQの高い、
人間力に満ちた人財を育てたいんです。

私は、これから求められるのは「3P」だと考えています。
一つはプロアクティブ。これは自分から進んで仕事ができる人財。
それからプロダクティブ。生産性の高い仕事ができる人財。
そしてプロフェッショナル。やっぱり自分の専門を持たなきゃいけない。

日本電産の三大精神は「情熱、熱意、執念」
「知的ハードワーキング」「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」
理事長の発信される言葉はどれも強烈に心に刺さるものばかりです。


名和 頭でっかちではダメだというのが、理事長の持論ですよね。
これはやっぱり、人を動かしてなんぼの経営の世界で戦ってこられた理事長だからこその
実感ではなかろうかと思います。例えば、京都大学の山中伸弥先生は、世界中の人から応援され、
支えられてiPS細胞の研究をなさっていますが、これはやはり山中先生が高い人間性の持ち主だからだと
思うんです。一緒に歩んでいきたいと思われるような人物でなければ大きな仕事もできないというのは、
長年経営の修羅場に身を置いてこられた理事長の実感だと思いますし、だからこそそういう人財を
育てていきたいとお考えになるのだと思うんです。

京都先端科学大学にお邪魔すると、学生たちが和気藹々とキャンパスライフと楽しんでいる様子が
伝わってきます。ただ知識を詰め込む授業ではなく、実験などを通して他の学生とコラボレーションしたり、
チームワーク力を養ったりする機会をたくさん設けられていて、仲間と一緒に何かをしたいという気持ちを
育むことを重視されていることが分かります。

理事長はその一方で、EQだけでもダメだとおっしゃっていますね。人間性さえよければいいと思うと、
どうしても甘さが出てしまう。やはり、現実の厳しさを乗り越えていく努力や執念はどうしても必要ですよね。


永守 もちろんEQだけじゃダメです。当社の三大精神の一つは、「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」
ですけれども、そういう気概とか執念、あるいは向上心が強いとか、負けず嫌いであるとか、
そういうものは不可欠ですよ。
当社で優れた開発をしている社員は、必ずしも一流大出身とは限りません。
一流大出身でなくとも優秀な社員はたくさんいます。
だから私は、玉露のカスより番茶の上等だと言うんです。
一流大学のカスより活躍する、上等な番茶を目指そうと。


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月刊『致知』2022年4月号より抜粋